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真珠、一粒の宇宙

小松 博

第33回 | 2015.3.30

「モルフォ蝶」

南米のアマゾン河流域に生息するモルフォ蝶は「生きた宝石」と言われています。
目を射抜くような強い光沢を伴ったコバルトブルーのその羽を実際に見ると、なるほどとうなずいてしまいます。自然の造形の最高傑作です。
当然学者たちはその美しさの秘密の解明に取り組みました。1924年メーソンという学者が鱗粉の「多層膜構造」を考え出し、その後、アンダーソンにより電子顕微鏡で確認されました。
「多層膜構造」というのは、極めて薄い層が何十層と積み重なっている状態を言います。こういう構造になっていると、光がこの羽に当たって、さまざまな光の色(光彩色)が生み出されます。
ところでこの多重膜構造ですが、この地球上で最たるものと言えば、それは真珠なのです。ピンクやグリーンの光彩色を伴う輝きを私たちは「テリ」と呼んでいます。真珠が宝石であるゆえんは「テリ」にあるのです。

第32回 | 2015.3.23

「電子顕微鏡」

真珠の研究にとって欠かせない機材のひとつに走査電子顕微鏡があります。略称SEM(セム、Scanning Electron Microscope)は、象牙の塔から広く一般大衆に普及しえた画期的電子顕微鏡と言われています。操作も簡単で、価格も比較的手頃だからです。
思えば今から20年も前でした。研究室勤務の私は、念願のSEMを入手し、その拡大画像に感動したものでした。
真珠層を構成するカルシウムの結晶が本当にれんが塀のように積み重なっているのです。御木本幸吉翁も見たことがない真珠の本質的姿が見られることに、この時代に生きていてよかったなどと思ったりもしました。
ミクロの世界を見ることの感動から始まったSEMとのつきあいも、現時点ではより重要性を帯びてきました。
真珠のテリの光学的解明、さらに海の中で、貝の中で、テリがどのように作られていくのかという生物的解明にも、電子顕微鏡による画像解析が必須となってきました。

第31回 | 2015.3.16

「三原色」

三原色とは、『広辞苑』によれば、「適当に混ぜれば、すべての色を表わしえる基となる色。絵具、印刷インキなどではシアン(青緑)・マゼンタ(赤紫)・イエロー(黄)を指し、光では赤・緑・青紫を指す」ということになります。
ここで注目しなければならないのは、三原色と言っても、光と絵具という別次元の異なった三原色があるということです。
光の三原色は混合すると白になるのに対し絵具のそれは黒になります。絵具やクレパスの色を重ね塗っていくと、どんどん暗くなっていくことは経験した方もいるのではないでしょうか。
さて、真珠の場合を考えてみます。真珠にはたんぱく質の中に色素が含まれています。例えば黒蝶真珠の場合、緑系、赤系、黄色系の三つがありますから、等分に配合されていると黒くなります。
一方、テリの光彩色は光の作る色ですから、配合で白く光ってくるのです。

第30回 | 2015.3.9

「模造真珠」

本物の真珠とイミテーションの見分け方の中で、もっとも簡単なのは、珠どうしをこすり合わせてみることです。
本物どうしは、わずかにひっかかりを感じるのに対し、イミテーションはつるっとすべります。もっとも説得的で、幼児からお年寄りまで納得してもらえます。
これは本物の表面がカルシウムなのに対し、イミテーションは一種のプラスティックの塗料から出来ている、物理的性質の違いによるものです。
先日、某テレビ局の方が見えて、両者の鑑別法を放映したいという話がありました。ところがこのこすり合わせ法ではテレビにはならないというのです。要するに「感じる」でなく、「目に見える」必要があるというのです。
「冷蔵庫の冷凍室に3分入れて出してください。本物はくもるのに対し、イミテーションはくもりません」。両者の熱伝導の違いに着目した方法を提案しました。

第29回 | 2015.3.2

「再生医療」

「…自然というものは、私たちの考えの何十倍、何百倍深遠な世界です。科学が一歩近付くと、その分一歩遠ざかっていく存在です。…」以前何かで読んだ誰かの言葉です。
真珠を研究対象としている私にとって、まさに「然り」の言葉です。とりわけ、真珠袋のことを研究していると、まさに一歩近付くと、一歩遠ざかっていく感がします。
貝の体の中に真珠袋は出来ます。そしてその貝から養分を貰って真珠を作ります。ところが、作るその真珠はその貝とはいろいろな面で似ていないのです。
淡水真珠を例にします。池蝶貝の体の中にカラス貝の外套膜の切片を移植します。切片は池蝶貝から養分を貰って真珠袋に成長します。やがて真珠袋の中に真珠が出来てきます。が、その真珠はカラス貝の真珠層から出来ています。言うなれば、カラス貝の真珠のために池蝶貝は体を貸しているようなものです。
今日の再生医学の、貝の世界での実現です。





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