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 今月のコラム

今月のコラム
真珠、一粒の宇宙

小松 博

第170回 | 2017.12.13

たんぱく質を鞣(なめ)す

真珠層をミクロに観察しますと、炭酸カルシウムの結晶(アラゴナイト)が、薄いレース状のタンパク質の膜に包まれているのが分かります。最近の研究で、この膜がこの結晶生成の鍵を握っていることが判明しました。厳密には膜の中にある2種のタンパク質の複合体(Pif80とPif97)が主人公であることを突き止めたのです。

微量な存在であるタンパク質は、真珠というこの宝石を日常的に守る上でも役立っています。例えば酸に侵されたとしても、それは表面上だけであって、より深く浸蝕されないのは、この膜が酸をくい止めているからです。真珠をアルコール等に漬けてテリを向上させることは広く行われている技術ですが、これもタンパク質が関与しているらしいのです。生皮を鞣して革にすることにより人類は衣服を確保したのと同じように、この微量なタンパク質を鞣して、テリを向上させているのではないかという仮説を私は持っています。

第170回 | 2017.12.05

ただ物理的、光学的に解明

「真珠の層状構造とiridescence(※)に就いて」なる論文があります。京都帝国大學の内田洋一、上田正康両先生が執筆され、昭和22年に発表されました。真珠の研究者達にとっては現在でも必読文献です。最近になって私はこの文献の真の重要性に初めて気が付きました。

それはこの論文が真珠で起きる「テリ」なる現象に、物理学に徹して取り組んでいるということです。表面から数えてどの辺の結晶層がこの現象に関与しているかを、分光器を使って計測しているのです。ずばり70ミクロンです。それより浅い層も深い層もiridescenceには大きな影響は与えないというのです。その付近を構成する結晶層の厚さと整然とした配列がテリを決める(iridescenceを放つ)ことを割り出したのです。

貝の生理、真珠袋の挙動あるいは水温変化や餌料環境などに一切触れることなく、結晶層の球状の集合体である真珠で起きる現象を、物理的に光学的に解明しているのです。

※虹色、光彩、干渉色のこと

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