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 今月のコラム

今月のコラム
真珠、一粒の宇宙

小松 博

第163回 | 2017.10.16

単位とは理解と想像の世界

世界で初めて養殖真珠を生み出した日本では、その宿命とも呼ぶべき奇妙な伝統が、この業界には多々あります。そのひとつに単位の「乱れ」があります。真珠の直径は「ミリ」で取引されるが、売買は「もんめ」です。大事な原料である核の直径は「分・厘」で、貝の大きさは「もんめ」、ネックレスに至っては「インチ」といった具合です。

同じ単位でも、真珠の美しさに関係する分野では「乱れ」ではなく、「理解不能」といった世界に遭遇します。核の周りの真珠層がテリという光の干渉現象を生み出しているのですが、厳密に言うと真珠層を構成している結晶層がこの虹のような現象を生み出しているのです。問題はこの結晶層の大きさです。縦・横1~2ミクロン、厚さ0.3~0.5ミクロンです。ミクロンとは千分の1ミリの世界です。虹の七色の赤は700、青は400ナノメータ、因みにナノメータは千分の1ミクロンの単位です。「理解」ではなく「想像」が必要なのです。

第162回 | 2017.10.10

北窓光線

この業界での永遠とも言うべき課題は、「どういう光線状態が真珠の品質評価に適しているか」です。専門家たちの解答は「北窓光線下で評価する」の筈です。北窓からは終日太陽は見えません。即ち天空光(青空の光)です。真珠ばかりでなく、微妙な色調の違いを査定するのは「北窓後」、これは昔からの常識になっています。しかし「北窓後」でも朝は青色、日中は黄色、夕方は橙色を帯びます。勿論夜や暗い日は使用不可です。

人工光線で「北窓光」を作れないかは、業界挙げての課題です。国立真珠検査所があった時代、この問題に対処すべく共同研究をしたことがあります。光源の色温度、照度、光の指向性、拡散度等々照明の適用条件を設定し、多くの実験を試みました。が、「北窓光」にはどうしても近づけないのです。研究中断後、問題は、照明の適用条件だけにあるのではなく、球体という形、表面拡大と内面透視、光の干渉など多角的視点であることが分かりました。

第161回 | 2017.10.02

画竜点睛

画竜点睛(がりょうてんせい)、有名な諺です。竜を描いて最後にひとみを書き加えたら、天にのぼったという故事に基づいています。

真珠養殖での画竜点睛は何かを考えてみます。古くは養殖晩期に「化粧まき漁場」に移動し、そこで赤みを出させる、これは一種の画竜点睛であり、今流に言えば、テリ出し作業です。テリが出ることにより、真珠は「天にのぼる」すなわち宝飾品になるのです。「テリ」とは真珠に、輝きを伴った色彩、あるいは色彩を伴った輝きを付けることです。養殖の最終場面で実施する、一番大切な作業です。サイズのアップは勿論、無キズ、ラウンド、まき、面も大切です。しかし「真珠を天にのぼらせる」のはテリしかないのです。テリは結晶層の厚さではなく、何の歪みもない、整然とした積み重なりで決まるのです。それは真珠袋を構成する二千万個の上皮細胞の健康な分泌作業が鍵を握っているのです。

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