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 今月のコラム

今月のコラム
真珠、一粒の宇宙

小松 博

第116回 | 2016.10.31

先天的か後天的か

真珠養殖技術というのは、見方を変えれば細胞レベルの技術であり、さらにその奥のDNAレベルの技術なのです。最近そのことを痛感しました。

アコヤ真珠の場合1960年代に、貝殻真珠層が黄色の貝から採ったピース(外套膜切片)を移植すると黄色い真珠が出来ることが国立真珠研究所から発表されました。色素を分泌する細胞は、移植した後、真珠袋になっても色素を分泌し続けるのです。

テリも遺伝するのではないかという幾つかの諸現象が最近になって言われるようになりました。テリを生み出す結晶層の厚さは遺伝する、即ちテリの良い貝殻真珠層を持つ貝のピースを移植するとテリの良い真珠が出来るというのです。

この重要な発見を目前にして、決して一面的に陥ってはいけないことを自戒しています。何故なら自然は常に、先天性と後天性の相互融和の中で発展していくからです。

第115回 | 2016.10.24

羽衣真珠

先日IJT2010(国際宝飾展)で、まさに「魂を揺さぶられるような」真珠を拝見しました。大粒の淡水真珠です。右上方から左下方に向けて、赤から緑の干渉色がほのかに滲み出ているのです。瞬時に「羽衣」を連想しました。天空を舞う天女がなびかせるあの羽衣です。パステルカラーのように薄いのですが、真珠層表層から生まれる光の色だけに存在感があり、見る人の心に染み込んでくるのです。

いかなる真珠も体の奥深くにある真珠袋の中で生成されます。生きている真珠袋は、貝の生理変化に沿って微妙な分泌変化を繰り広げます。この変化の妙の頂点にこのような真珠があるのだと思います。アコヤの世界で“片まき”と呼ばれる真珠もこの変化の妙で作られます。片側がそれぞれピンク、グリーンの光の色を放つのです。しかし“連相”が合わないために嫌われる存在です。羽衣と嫌われもの、この溝をどう埋めるか、が課題です。

第114回 | 2016.10.17

養殖コンクパール

「コンクパールの養殖に成功、…フロリダ・アトランティック大学で2年余の研究実験で成功、200個以上の真珠を彩珠、…米国宝石学会(GIA)が鑑別で立証」(サイエンス・デイリー2009年11月5日)

このニュースを聞いて、真珠養殖のグローバル化が研究分野でも本格的に始まったことを実感しました。コンクパールを作るのはピンク貝(Strombus Gigas)という巻貝ですから、アコヤ、クロチョウなどの二枚貝よりその技術ははるかに難しく、前人未踏と言われていた領域での成功です。恐らく最新の医学・薬学・生理学の知識が結集されての成果だと思います。これを機に、この真珠の持つ“フレーム(炎)”のメカニズムを解明し、すべての真珠にそれを実現させる技術を開発して欲しいし、さらには21世紀型の養殖と言われる、環境との調和・融合や他生物との共存なども目指して欲しいと思います。

第113回 | 2016.10.11

生理空間の違い

真珠は真珠袋という臓器(生体組織)の中で出来ます。この事実が分かりにくい理由は3つあります。ひとつは、核があって真珠が出来るという誤った考えが広く定着しているからです。ふたつは、この臓器がミクロンレベルの薄い膜ですので肉眼では見えないからです。みっつは、その膜を構成する細胞そのものを理解するには一定の専門知識が必要だからです。

アワビから採れたという薄い板状の天然真珠があります。アコヤ真珠を見慣れている私たちにとって、「何でこんなに薄い真珠が出来るの?」ということになります。これも真珠袋が存在する生理空間を考えれば簡単に説明ができます。アワビのそれは外套膜という身の縁にある薄い膜の中にあります。そこは絶えず圧迫され続けていますから平ぺったい袋になります。アコヤのそれは生殖巣という広い空間ですからゆったりした袋になります。

第112回 | 2016.10.03

歴史的教訓

先日、文献を読んでいたら興味ある記事に出合いました。「…真珠の研究は16世紀の中頃から世界の語学者によって行われた。当時は真珠の中心をなす核についての研究が多く、これが凡そ二百年も続いた。1856年真珠袋が発見されて、真珠の成因が明らかになった…」(磯和楠吉「真珠成因研究の史的外観」国立真珠研究所報告1、1956)(下線は筆者)

1856年Von Hesslingによる真珠袋の発見から、1907年の日本での養殖法の発明を経て今日まで153年が経過しました。しかしそれを上回る二百年余もの間、学者達は核を研究していたのです。核になるものが貝体内に入ると真珠が出来るという一種の前提あるいは“定説”を信じ込んでいたからです。この歴史的事実は私達に次の教訓を教えてくれます。間違っているが分かりやすい“定説”の呪縛は極めて根強いものであるが、真珠袋という分かりにくい真理があってこそ物事は発展するのだということです。

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