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 今月のコラム

今月のコラム
真珠、一粒の宇宙

小松 博

第160回 | 2017.09.26

アコヤ真珠が生き残るために<その10>観察力と発想が必須

真珠養殖現場での技術改良に携わって20年以上になります。無数のファクターが絡み合った世界ですので未だ顕著な成果を挙げえていません。この間ひとつの疑問が執拗に頭に絡みついています。それは、貝の生殖巣の中が真珠を作る場所だということです。

和田浩爾先生は、「冬眠から覚め、夏場に向けて産卵行動が続き、9月以降は冬眠に向けて栄養物を貯える時期になる。これに同調して、石灰化速度が大の夏場は、結晶は大きく成長せず、冬場に向けて結晶は大きく成長する、すなわちテリがアップする」と指摘しています。この指摘は場所が生殖巣だから言えるのであって、天然真珠のように外套膜の中が場所であれば言えないのではないかという疑問です。更に真珠袋に対する圧迫という物理作用も別の思考としてあるべきとも思っています。

真珠の命であるテリの促進には、注意深い観察と、大胆な発想の転換が必須なのです。

第159回 | 2017.09.19

アコヤ真珠が生き残るために<その9>真珠も複合現象

光が、特殊な構造に当たって特定の色を反射あるいは透過させることを構造色と言います。真珠のテリもこれに該当します。モルフォ蝶や孔雀の羽などはその代表例です。ニュートンもその著書(Newton「Opticks」1704)の中でこの現象を追究していますが、本格的研究は20世紀以降に始まりました。それらの研究で明らかになったことは、幾つかの現象が絡み合った複合現象だということです。モルフォ蝶の羽の場合、鱗粉が多層膜構造を有していますから、光の干渉現象が主体ですが、さらに回析効果がこれに加わっているといった具合です。

真珠のテリも、光の反射よりも、実際には透過の干渉現象が主体です(本連載No156,157参照)。テリの良いアコヤ真珠を黒いクロスの上で見ますと、中心部が緑、その周りを赤色が囲んでいます。これらの色が透過の干渉色です。そして頭頂部に映っている蛍光灯を、できたら10倍ルーペでご覧になってください。鮮やかな赤や緑の反射干渉色が見えます。真珠も複合現象なのです。

第158回 | 2017.09.11

アコヤ真珠が生き残るために<その8>真珠層の妙

“ドブガイ”と総称されている淡水産の貝は大多数の養殖真珠にとって必要不可欠の存在です。この貝の貝殻から核が作られるからです。この内面真珠層は極めて分厚く、直径7、8ミリの核でも十分取れるのです。

この内面を観察しますと、貝殻先端部は虹彩に輝いているのですが、後端部は全く輝きがありません。同じ真珠層でありながら虹彩の有無があるのです。理由は真珠層を構成している結晶層の厚さに格差があり、先端部は薄く、後端は厚いのです。先端は虹とほぼ同じ波長で0.4から0.7ミクロン、後端はその10倍以上の厚さです。

この貝は川底の泥の中に半分以上埋まって立っています。川に流されないためにその箇所は厚くなっており、先端は口を開けて餌を取るため薄いのです。虹彩即ち真珠のテリは真珠層があるから起きるのですが、より厳密に言いますと、真珠層を構成している結晶層の厚さが虹と同じ波長の時、テリが出てくるのです。真珠層だけでは不十分なのです。

第157回 | 2017.09.04

アコヤ真珠が生き残るために<その7>球体のおもしろさ(続き)

前回(No156)で、真珠の球体という形態から発生する、平板とは異なる光学現象について触れました。特に反射の干渉色が光源像の周囲に、真珠と光源の角度に応じた色として現れることを述べました。透過の干渉色は真珠の全面に現れているのですが、反射の干渉色は部分的にしか現れていないということです。この「部分的」を「全面的」にする新たな課題の出現です。解決は、偶然も味方になって短期間で完了しました。

遠くに光源があるから、真珠と光源との間に入射角度が生じるのです。光源をもっと引き寄せれば良いのです。その最たることは光源に真珠を接触させれば良いのです。蛍光灯に真珠を接すれば、真珠の半球全体に蛍光灯の像が映ります。ということは真珠に0度から90度までの全入射角の反射干渉色が半球全体に見えることになります。残りの半球全体には、透過の干渉色が現れます。2つの色が補色関係になるのは光学の法則通りです。

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