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 今月のコラム

今月のコラム
真珠、一粒の宇宙

小松 博

第169回 | 2017.11.29

暗闇の中の黒猫

コロンビア大学のS・ファイアスタイン教授が書かれた『イグノランス―無知こそ科学の原動力―』を読んでいます。本の中で教授は、科学が日々どのように進歩していくのか、最も適切な言葉として、「真っ暗な部屋の中で黒猫を探し出すのはとても難しい、そこに猫がいなければなおのこと」という古い格言を引用しています。

一昨年機会があって、国立真珠研究所の創立(1956年)から閉鎖(1978年)までの22年間の全論文(251点)を読みました。真珠養殖のあらゆる分野への研究の切り込みです。

36年たった現在のアコヤ真珠養殖の実情を考えてみましょう。価格、品質、母貝、ピース貝……諸問題が以前と同様に山積しています。養殖法の進歩のためには、諸文献を読むと言った勉強ではなく、自分の真珠の欠陥を先ず1つ探し出すこと。次に漁場特性や工程分析を徹底して行い、是正する具体的方法を見つけること、それを生涯続けることです。

第168回 | 2017.11.20

品質というあいまいな言葉

「高品質真珠の生産を目指す」「この真珠は品質が良いものです」等々品質の良さを強調する言葉が日常的に使われています。しかし真珠の場合、品質という言葉は非常にあいまいな言葉です。何故なら品質は幾つかの品質要素から成る総称だからです。品質要素とは「テリ」「実体色」「まき」「かたち」「キズ」「面」等のことです。単に「品質が良い」では、テリが良いのか、キズが少ないのか、かたちが歪んでいないのか、あるいは品質要素のすべてが上位にあるのか、最も肝心な品質の内容が全く分からないからです。

さらに「品質要素のすべてが上位にある」ことを指すのだと仮定しても、大きな問題が残ります。それは品質要素間の順位付けが不明だからです。換言すれば、宝石としての真珠の本質、真珠にとって最も重要な品質要素は何かが不明のままであるからです。太古の人間が真珠を崇めたのは、その輝きであり、現代流で言えば、光が作る数々の色彩なのです。

第167回 | 2017.11.13

真珠の透明感

真珠を最も厳密に観察している加工の現場では、テリに良さを独特の表現で言い表しています。「カチッとしている」「透明感がある」「自分の顔が良く写る」等々です。問題はこの「透明感がある」をどう解釈するかです。真珠越しに景色が透けて見えることではない筈です。

テリとは、真珠表層で起きる光の干渉現象のことです。この現象は光が作る色彩が現れることを意味します。この光が作る色彩の特長は、それがピンクでもグリーンでも他の色でもそうですが、現象が強く起きれば起きる程、より一層鮮やかになっていきます。絵具で作る色彩とは反対に、光が作る色彩は、彩度、明度をどんどん上げて出てくるのです。

真珠の中から出てくる、この濁りの全くない、彩度・明度が最高の、光が作る色彩のことを「透明感がある」と表現したのではないか、テリ最高の表現への私の考察内容です。

第166回 | 2017.11.07

先天的か後天的か(その3)

真珠の生成は、養殖時代になった今も、複雑・難解な問題が山積しています。海と生き物(貝)という無数のファクター(要因)を持つ世界の合作品ですから当然なのでしょうが。表題のテーマについて、これまで2回も述べてきました(No72、No116)。

最近ではテリについてもピース貝(外套膜切片を提供する貝(ドナー)を指す)のそれが遺伝するという学説が有力になっています。ある本(ジェイムズ・トンプソン『凍氷』)を読んでいて「子どもの頃はいろいろなことがあって当たり前だ。だが最高の子ども時代を送っても、しっかりした大人になるとは限らない」という個所で気が付いたのです。自分にとって大切なことは「この学説の受け止め方にある」ということです。即ちテリは先天性で決まるのか後天性で決まるのかという「二者択一」を離れ、テリの中で何が先天的で、何が後天的かという「二者止揚」とも言うべき立場です。

それにはピース貝真珠層と、真珠の真珠層の徹底分析、電子顕微鏡を使ったミクロンレベルの分析が必要です。

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