今月のコラム


—小松 博
第188回 | 2020.07.15
440兆個のミクロンのレンガ
伊勢志摩サミットを記念してデザイン化された小さなブローチを胸に、首脳達がニュースを飾っています。発祥の地にふさわしく、私たちにとっても誇りある光景でもあります。
真珠の美しさは永遠です。養殖の時代になってもそれは不変です。その理由を科学で紐解いてみましょう。
人間の体は約60兆の細胞からできているそうです。私たちの容姿、表情、容貌、指紋、個性等々が異なるのはそれに起因します。しかし真珠はそれを上まわる440兆個のミクロのレンガからできているのです。電子顕微鏡の発達と、超ミクロの科学が最近それを証明しました。数ある宝石の中で、細胞に、しかも半端でない膨大な細胞に起因する宝石は真珠しかないのです。実体色、テリ、キズ、かたち、まき等々の真珠の品質要素は、真珠表面のごく一部を見ているに過ぎないのです。美しさへの感動こそが真の把握なのです。
JOW-Japan新報 2016年6月号
第187回 | 2020.07.03
玉虫厨子から学ぶこと
20年以上も前のことですが、私の研究室に電気工事関係者が入ってきたことがあります。諸設備を興味深く見てまわっていましたが、突然我が意を得たかのように、ざるに入っていた白い玉を指さし、「これが真珠ですか、随分沢山ありますね」と叫んだのです。核と真珠を間違えているのです。女性と男性とはこと真珠に関しては認識が全く異なるということを初めて知ったのがこのできごとでした。この認識の原点はどこから始まったのでしょうか。私の仕事が真珠関連だと聞いただけで、両者の私への対応は20年前と余り変わっていないのです。女性にとって真珠は代表的宝飾品であり、男性には余り縁のないものです。
しかし飛鳥時代に作られた玉虫厨子は国宝であり、光の干渉によって起こる緑や紫の色調変化は玉虫の翅によるものです。今、私たちが玉虫厨子から学ぶことは、光の干渉起因による美しい色調の変化、すなわち真珠のテリの大切さではないでしょうか。
「JOW-Japan新報」2016年5月号