今月のコラム


—小松 博
第199回 | 2020.12.16
テリ解明への道
1990年代終わり、国際宝飾展で、今まで見たこともないテリを持つ中国産淡水真珠に出会いました。その現象解明は全く不明です。考え悩んだ結果選んだのは、テリの勉強のしなおしです。大学院博士課程に入学しました。人生のおもしろいところは、そこで「偶然」に出会ったのです。先生の光学実験室を見学していた時のことです。レントゲン写真を見る照明装置※が偶然点灯していたので、その上に、持っていた黒蝶真珠を何気なく置いてみました。これが偶然の始まりです。何と真珠の下半球に、赤や緑の干渉色が出ているのです。アコヤ真珠では下と上半球に2種の干渉色が出ます。反射と透過による干渉です。真珠には2つの干渉色が存在する。考えもしなかった新しい道が広がったのです。諸先生のアドバイスから、新しい理論が構築され始めました。①球体という形への着目、②カルシウム結晶積層への着目等々です。テリ解明への道が拡がったのです。
※ライトボックスとも言われ、箱の中の点灯した蛍光灯でレントゲン像を透かし見る装置
JOW-Japan新報2017年5月号
第198回 | 2020.12.03
代打による反撃は実験でもありえるのです
今から55年前のことです。大学を卒業した私は恩師の薦めで真珠の研究を始めることになり某社に入社しました。給与は世間並以上、勤務地は都心、言うところなしの待遇です。しかし私はそれまで真珠というものを見たことがないのです。当然、関連知識は全くの零です。にもかかわらず仕事はスタートしました。
真珠をアルコールに漬けることから研究は始まりました。真珠の物性変化とアルコールの浸漬時間の関係を知るためです。しかし何よりも困ったのは、アルコールが真珠の中にどこまで浸透したかが分からないのです。悩みに悩みました。解決策は突然やってきました。真珠にこだわりすぎたのです。真珠の代わりにチョークを使えば良いのです。チョークを液に漬け、一定時間後、折ってその跡に印をつける。その寸法を測る。個体液体の浸漬関係がきれいな放物線で姿を現したのです。代打による反撃は野球だけではないのです。
JOW-Japan新報2017年4月号